春になると森に光が降るという。
天狗が住むという、天狗杉の根本に佇み、無心に星空を眺める。
じっと星空を見ていると、一つの星が群から離れこぼれ落ちてきた。
こぼれ落ちた星は流れ星となり、パッと音と立てて弾け、
小さな小さな光の粒となり、森に降り注ぐ。
光の粒が触れた瞬間に固く閉じていた木の芽が一つ、二つと衣を脱ぎ捨てていく。
最初は小さかった歌声が、少しづつ重なり、いろんなパートに分かれていく。
あるものはテノール。あるものはソプラノ。
さあ、春の歌曲の幕開けだよ。
目を閉じて席につこう。
早くしないと遅れるよ。