昼間は登山客でにぎわったであろう人気の山域も、登山口で準備をしているときにすれ違ったグループで最後だったようで、山には静寂が戻ろうとしていた。
太陽が次第に西に沈み、空気が冷えてくると、森の気配が変わる。
山で暮らす者たちの気配が濃厚になる。
今からは、俺たちの世界なんだぞ。
お前は誰だ、邪魔するな。
そんな声が聞こえたような気がする。
霊仙の山陰から十三夜の月が上がった。
森の中で楽しむか、大地に出て月夜を楽しむか。
そうだ、ここは琵琶湖を西の望む山。
今、東から月が上がってきたということは、琵琶湖に沈む月が見えるかもしれない。
上まであがてみることにしよう。
日が西に傾き、太陽の周りから絵の具が湖に染まるように、空の色が少しづつ変わってくる。
母なる琵琶の湖に日が沈む。
ゆっくり、ゆっくりと時が流れる。
そろそろ、今夜の寝床を決めよう。