置いてけぼりになってしまったのか、雪の訪れを告げるといわれる、雪虫が一人さみしそうに芽生えを待つ梢にしがみついていた。
仲間たちはみな、北の国に帰ったというのに、このままじゃ溶けちゃうよ。
白い雲と一緒に北に向かう最後の風が吹いた。
さようなら。
また来てね。
山の芽生えの時間は、駆け足で足元から空へと駆け上っていく。
今年生まれた赤ちゃんは仲間に負けじと精いっぱいに伸びをする。
大きくなあれ。
大きくなあれ。
花が咲き、虫達が飛び回る季節がやってきた。
光が輝き命が躍動する。
思いっきり息をしてくるくる回ってしまう。
目を回してひっくり返って草むらに寝転ぶと、空から栃の花がぽろぽろと落ちてきた。
この季節が好きだ。
雪虫くんは、無事仲間と会えたかな。