のろやま

身の回りの小さな発見と驚きを見つける旅に出かけたい

恵那祈りの道

稜線の急な道を黙々と上る、前宮の道は修業の道だった。

ふと前を見ると立ち枯れの大きな桧がそびえていた。

枯れてもまだ大地に根を張る姿に、命の余韻を感じた。

何年生きたのだろう。

そして枯れて何年この姿をとどめるのだろう。

この山のヌシのような檜の古木はひっそりそここを通る拝礼者を眺めてきたのだろう。

そんなことを想いながらしば歩を停めてその姿を眺め、そっと幹に手を当てた。

山頂までの中間地点に当たるのか、地図には中の小屋跡とある少し開けた場所の

小さな祠の前に、苔むした不動明王が鎮座していらした。

合掌し頭を下げお顔をじっと見つめてみる。

ちょっとへの字のくちにふっくらした頬になんだか親しみを覚え

思わず微笑んでしまいます。

昔は今よりもっと下から歩かねばならなかったであろう人たちは

ここの、小屋でほっと一息休憩などされていたのかな。

小屋跡を過ぎ、しばらく行くといったん視界が開け、なだらかな道がしばらく続く

今日の天気だったらこの辺りでテントをはるのも気持ちよいかもしれないな。

道を歩く時、テントが張れそうな場所をなんとなく確認するようにしている。

山の中、どこでもテントを張れそうに思えるが

気持ちよく張れる場所はそう多くない。

いろんなところでテントを張り、失敗したり、気持ちよかったり

そんなことを繰り返して段々と感覚が分かってくる。

遠く西の方向には、名古屋市街の向こうに海が光る。

ここで日が沈んでいくのを見たらいい気持ちだろうな。

後ろ髪をひかれながらも、次第に高度を上げていくと、朝ついたであろう

氷の結晶がポロポロと音を立てながら風に舞っていた。

目指す山容が見えてきた。

あの頂辺りが神坂峠からの登山道と交わりあたりで、あの向こうにもう少し行くと

山頂避難小屋がある場所だ。

日が暮れるまでに行きつけるかな。

時刻と日の陰りを見ると、ギリギリかと思われた。

少し急ぐか。

北に見える御嶽山の山頂も真っ白な衣で覆われていた。

ついこの前までは赤い衣だったのに。

赤から白い衣へと裾が段々と広がり季節が進む。

これから厳しい冬になる。

ねえ、聖さん

行者越えとなずけられた岩尾根に小さな聖さんが祀られていた。

もうすぐ雪ですっかり埋もれてしまうだろうが、その身には

寒さから守るように苔が衣のように覆い隠し始めていた。